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神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)239号 判決 1981年8月24日

原告

破産者イケダコーヒ有限会社破産管財人

西田嘉晴

被告

三洋物産株式会社

右代表者

田中重治

被告

六甲食品株式会社

右代表者

上野豊喜

主文

原告に対し、被告三洋物産株式会社は金四五〇万円及びこれに対する昭和五四年三月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告六甲食品株式会社は金一〇五五万円及びこれに対する昭和五四年三月一一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、原告が担保として、被告三洋物産株式会社に対しては金一五〇万円、被告六甲食品株式会社に対しては金三五〇万円を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  破産者イケダコーヒー有限会社(以下、破産会社という。)は、昭和五三年九月二九日、当時の代表者今西貞夫が行方不明となり、同月三〇日、支払停止となり、昭和五四年二月一日、神戸地方裁判所において破産宣告を受けた。原告は、同日、その破産管財人に選任された。<以下、事実省略>

理由

一請求の原因1の事実及び被告らが被産会社に対して債権を有している事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、破産会社に、原告が否認権行使の対象として主張する行為があつたか否か等について、判断する。

1  <証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  破産会社は、生田区中山手通一丁目向山ビル内に店舗を賃借してスナックトントンを経営していたが、右店舗の賃貸借に関しては、貸主向山保、借主破産会社の間に、昭和五二年一〇月二六日、賃貸借契約公正証書(甲第二号証)が作成され、借主は貸主に対して解約時には二〇パーセントを控除した額を返還する約束で敷金一〇〇〇万円を交付しており、なお、その本旨三〇条において、借主は貸主に対し、右店舗の営業権及び店舗設備、造作、什器備品等営業に関する一切の物の代金として七〇〇万円を支払うものとし、解約時には借主がこれらを営業権とともに第三者に譲渡、転貸、処分することができる旨の約束をしている(以下、甲第二号証第三〇条の約定という。)。

破産会社は、北区鈴蘭台北町に店舗を賃借して割烹トントンを経営していたが、右店舗の賃貸借にあたり、その貸主に、敷金三〇〇万円を交付している。

(二)  海星商事の代表取締役中村良輝は、昭和五三年六月から被告六甲食品の取締役をしている。

(三)  破産会社は、海星商事宛に、(1)昭和五三年八月四日付一二〇〇万円(乙第一号証)、(2)同月一五日付八〇〇万円(乙第二号証)、二通の領収書を作成、交付している。

(四)  昭和五三年八月一五日、貸主海星商事、借主破産会社(連帯保証人今西貞夫)間に二〇〇〇万円の金銭貸借公正証書(乙第三号証)が作成されており、右貸金元本の内金一二〇〇万円は同年一〇月二日に、残金八〇〇万円は同月一五日に弁済する約束となつている。そして、右債権の担保として、借主が、スナックトントンの店舗の敷金返還請求権を貸主に譲渡し、甲第二号証第三〇条の約定に基づく権利を右債権の担保にあてる旨の約定がなされている。

(五)  海星商事は、破産会社宛に、(1)昭和五三年一〇月四日付、八〇〇万円(スナックトントン関係、甲第三号証)、(2)同月六日付二五五万円(割烹トントン関係、甲第四号証)、二通の領収書(いずれも、貸付金関係、再発行のもの)を作成、交付している。

(六)  破産会社は、昭和五三年一〇月四日、向山保に、八〇〇万円の領収書を作成、交付している。

植田守彦(割烹トントンの店舗の貸主)は、昭和五三年一〇月六日、被告三洋物産宛に、北区鈴蘭台北二丁目三番八号シャトウすずらん店舗一戸の敷金三〇〇万円の領収書を、作成、交付している。

(七)  被告六甲食品は、昭和五三年一一月三〇日、約束手形(破産会社が同年八月一日池田宗弘宛で振出した、海星商事の同年九月三〇日付被告六甲食品を被裏書人とする裏書のある、金額八〇〇万円、満期同年一〇月一五日の約束手形。以下、本件八〇〇万円の手形という。)金債権八〇〇万円を含む合計一〇一六万余円の債権について、根抵当権(極度額二五〇〇万円)実行のため、神戸地方裁判所に破産会社所有の不動産の競売を申立て、昭和五五年八月二九日、共益費用を含めて二五三四万余円の配当金を受領しているが、内八〇〇万円は、右約束手形金債権の支払に充当されている。

(八)  被告六甲食品は、昭和五四年二月二一日、破産会社に対する破産債権合計四三二八万三四〇四円(約束手形金債権四二六二万三八二五円、売掛金債権六五万九五七九円)の届出をした。右約束手形金債権のうちには、本件八〇〇万円の手形及び被告会社が振出した金額一二〇〇万円、満期昭和五三年一〇月二日の約束手形(以下、本件一二〇〇万円の手形という。)の約束手形金債権合計二〇〇〇万円が含まれている(本件一二〇〇万円の手形金債権については、前記(七)の配当金からの支払充当はない。)。

(九)  被告三洋物産、海星商事は、ともに、破産会社に対する破産債権の届出はしていない。

2  右1で認定した諸事実、及び<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  破産会社は、甲第二号証第三〇条の約定の七〇〇万円のうち、約五〇〇万円を、貸主に支払つている。割烹トントンの店舗の敷金は、解約時に一五パーセントを控除した額を返還する約束であつた。

(二)  破産会社は、従来、被告六甲食品から水産物等を買受けており、買掛金債務は負担しているが、同被告から借金をしたことはなかつた。もつとも、破産会社(今西貞夫)は、被告六甲食品(上野豊喜)に融資先の斡旋方を依頼し、その紹介により、海星商事から、昭和五三年八月四日頃、自己振出の金額一二〇〇万円の約束手形の割引を受け、同月一五日には現金八〇〇万円の貸与を受けている。乙第三号証金銭貸借公正証書は、その際、今西貞夫が中村良輝とともに公証人役場に赴いて作成させたものである。

(三)  破産会社は、昭和五三年九月三〇日支払停止となつたが、その直後、右事実を知つた被告らの代表者両名は一緒に破産会社を訪れ、上野豊喜から、代表者が行方不明となつているため、十分には事情のわからない破産会社専務取締役の池田宗弘に対し、賃貸借契約書を預つており、敷金返還請求権を行使して債権の満足を得たいから同道して賃貸借契約の解約をしてもらいたい旨、要求した。池田宗弘は、被告らが債権者であるので、やむなく、田中重治と同道して、同年一〇月四日頃及び六日頃に、スナックトントン、割烹トントンの両店舗の貸主方を訪れ、二つの店舗の賃貸借契約を解約した。約定に基づき、スナックトントンの店舗の貸主からは八〇〇万円の、割烹トントンの店舗の貸主からは二五五万円の、敷金が、破産会社に返還された。右返還に伴い、現実にどのように金銭が動いたかは定かでないが、その際、被告三洋物産は、スナックトントンの店舗の貸主には、あらためて敷金を差入れ、なお甲第二号証第三〇条の約定により代金の未払分として二〇〇万円足らずを支払つて、また、割烹トントンの店舗の貸主には、あらためて敷金を差入れて、右二つの店舗を、あらためて自ら賃借している。そして、後日、池田宗弘は、上野豊喜から、発行者名義は定かでないが、破産会社宛の、昭和五三年一〇月四日付八〇〇万円と、同月六日付二五五万円の、二通の領収書を受取つている。その後、池田宗弘は、倒産後の混乱で右二通の領収書を紛失してしまつたので、上野豊喜にその再発行を求めたところ、同人から交付されたのが、甲第三、第四号証領収書である。

(四)  被告六甲食品は、海星商事に対し、最悪の場合には自分が責任を負うという約束で破産会社を紹介していたので、破産会社が支払停止となるや、海星商事の破産会社に対する貸金債権の譲渡を受け、これを自らの破産会社に対する債権に含めて、破産債権の届出をした。右債権譲渡は、まずは乙第三号証公正証書の作成の際に破産会社が振出した八〇〇万円、一二〇〇万円の二通の約束手形を買戻す(海星商事から被告六甲食品に裏書譲渡する)という形でなされたものと推認される。右手形のうちの一通が本件八〇〇万円の手形であることは明らかであり、また、前後の事情からみて、他の一通は本件一二〇〇万円の手形であつて、同じく昭和五三年九月三〇日に海星商事から被告六甲食品に裏書譲渡されたものと推認される。

(五)  被告六甲食品代表者本人は、スナツクトントンの敷金は、回り回つて結局被告六甲食品が得たということがいえる旨、供述している。

(六)  被告三洋物産は、破産会社が支払停止となつた時点で、破産会社に対して、約一〇〇〇万円の債権を有していた。

<反証排斥略>

3  右1及び2で認定した事実関係によれば、

判旨(一) 海星商事は破産会社に対し二〇〇〇万円の債権を有していたところ、昭和五三年九月三〇日にこれを被告六甲食品に譲渡したものであり、被告六甲食品は、同年一〇月四日及び六日に、破産会社から、同会社が各貸主から返還を受けたスナックトントンの店舗の敷金八〇〇万円、割烹トントンの敷金二五五万円合計一〇五五万円を、海星商事から譲受けた自己の破産会社に対する債権に対する弁済として受領したものであり、

(二) 被告三洋物産は、昭和五三年一〇月四日、スナックトントンの店舗をあらためて自ら賃借するに際し、破産会社に対する債権の行使として、貸主向山保の承諾を得て、破産会社から、甲第二号証第三〇条の約定に基づき破産会社が貸主向山保に支払つた代金の返還請求権(それは、少なくとも四五〇万円を下ることはないものと認められる。)の譲渡を受けてこれを行使し右と同額の利益を得たものである、

と推認される。

右認定に反する被告ら代表者本人両名の供述は措信することができず、前認定1の(五)の事実は、さきの認定にあらわれた海星商事と被告六甲食品との間の関係等にかんがみ、右認定を左右するに足りるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上、破産会社は、支払停止後に、被告六甲食品に対して一〇五五万円の債務の弁済をし、被告三洋物産に対して四五〇万円の債権譲渡をしたのであり、当時被告らはいずれも支払の停止の事実を知つていたものであるから、原告は、破産法第七二条第二号によつてこれらの行為を否認することができるものというべきである。

三以上の次第で、原告に対し、被告六甲食品は一〇五五万円及びこれに対する本訴状が同被告に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和五四年三月一一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告三洋物産は四五〇万円及びこれに対する本訴状が同被告に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和五四年三月一一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、支払わなければならないから、原告の請求は、右の限度で正当として認容すべく、これを超える部分については否認権行使の対象となる行為がなく、したがつて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(富澤達)

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